「介護離職をゼロにする!」
2015年9月、当時の安倍晋三首相は、新三本の矢のひとつに介護離職問題をあげた。
あれから10年以上が過ぎたが、介護離職の数字は高止まりしている。
年間10万人、わかつているだけでも、家族の介護などを理由に離職する人たちがこんなにも多く、今後も下がるとは思えない。
さらに、この問題の本質は、人数の多さだけでなく、その中でも40代50代が多くを占めていることにある。
40代50代といえば、企業にとっても重要なポストを担っている人たち、この年代の多くが、いま、親の介護問題に直面している。
そして、どこに相談してよいかわからない、職場の環境がどこも忙しい、介護休業制度について知らなかったなどの理由から、介護を理由に離職した人の中で75%もの人たちは、誰にも相談せずに離職するという。
さらに、2030年には団塊の世代が80歳を超えてくると、認知症患者の増加が予想されるが、もし、準備しないまま家族が、ある日突然認知症介護に直面したとき、介護離職を避けることは難しいだろう。
認知症介護は、恥ずかしくて相談しにくい、よりセンシティブな問題だ。
多くの業務をこなしてくれている部下が、あるいは多くの人の上に立つリーダーが、ある日突然、離れて暮らす親の介護問題に直面したとき、あなたの会社はどこまで対応できますか?
考えられるリスクをまとめてみました。
この記事の目次
①「40代・50代のコア人材」の離職がもたらす、数千万円の損失
企業にとって40代・50代とは、現場を回すトッププレイヤーであり、組織を率いる管理職(マネジメント層)です。彼らが担っているのは、単なる日々のタスクではありません。
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長年培ってきたクライアントとの深い信頼関係
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代えの利かない業務のノウハウ
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チームをまとめる求心力
これらを持つエース社員が1人離職するだけで、現場の業務は一瞬でストップします。
ある試算によると、管理職クラスの社員が1人離職した際、採用コスト、引き継ぎロス、生産性低下などを合計した損失額は数百万円〜数千万円にのぼると言われています。中小企業であれば、文字通り会社の存続に関わるレベルの損害です。

②「会社に相談しない75%」が引き起こす、現場の静かな崩壊
介護リスクの最も厄介な点は、「当事者の約75%が、会社に相談せず1人で抱え込む」というデータにあります。
ビジネスで優秀な人ほど、「プライベートのトラブルを仕事に持ち込みたくない」「自分でなんとか解決しなければ」と責任感を発揮してしまい、結果としてギリギリまで周囲に隠し通します。
その結果、何が起きるか。
会社側には「最近、なぜかあいつのミスが増えた」「急な遅刻や有給が増えたけれど、やる気がなくなったのだろうか」としか見えません。
そしてある日突然、何の前触れもなく「一身上の都合により辞職します」という辞表が提出されるのです。事前のフォローや引き継ぎの準備すらさせてもらえない「突発的なエース離職」の引き金は、この75%という高い沈黙率にあります。
③「2030年の認知症急増」で始まる、若手社員への「負の連鎖」
団塊の世代が80代を迎え、4人に1人が認知症リスクに晒される2030年以降。
この問題は40代・50代の離職だけに留まりません。
エースが突然抜け、穴だらけになった現場のシワ寄せは、間違いなく残されたメンバー、特に「20代・30代の若手・中堅社員」の肩に重くのしかかります。
過度な業務過多によって若手社員のエンゲージメントが低下し、連鎖的な離職(ドミノ離職)を招く危険性があります。
さらに最悪なケースでは、親の介護負担がそのまま子供世代に転嫁され、若手社員の「ヤングケアラー化」が進むという、日本の労働市場における最悪のサイクルを自社内で発生させてしまうのです。

仕組み化こそが、会社とキャリアを救う唯一の道
介護離職は、もはや「家庭の事情」という綺麗事で片付けられる問題ではありません。
放置すれば組織の足元をすくいかねない、立派な「最大級の経営リスク」です。
だからこそ、会社側は「制度を整えたからいつでも使ってね」と待つだけの姿勢を改めなければなりません。
「介護は恥ずかしいことではない」
「1人で抱え込まず、プロに実務をアウトソーシングして自分はマネジメントに回ろう」というメッセージを、経営層や管理職が事あるごとに発信し、当事者の心理的ハードルを下げてあげること。
そして介護休業制度の活用を担当する部署は、従業員との話し合いの中から、いかに使ってもらうか、問題を抱えた従業員の立場から考えて使いやすい制度はいかなるものか、を常に念頭に置き、制度を柔軟に変えていくことができる社内体制を構築すること。
経営幹部は、定期的に制度の利用状況を確認し、その内容を従業員にわかりやすくフィードバックすること。
そして働くあなた自身も、「仕組みで解決する準備」を親が元気なうちから始めておくこと。
自社のエースを、そして自分自身のキャリアを守るために。
数字の裏にある「本当のリスク」に、今すぐ目を向けてみませんか。

