売上高2兆円の誕生──本当に「国民のため」の統合なのか

2025年12月1日、ドラッグストア業界に大きな再編が起きた。
国内最大手のウエルシアホールディングスが、業界2位のツルハホールディングスの完全子会社となる経営統合である。

売上高は約2兆円規模。
新聞各紙では「国内市場の成長が見込めないため、今後は海外展開を視野に入れる」といった論調が目立った。

しかし、この巨大統合は、本当に日本の国民の健康や医療にとってプラスなのだろうか。
私は、その点に強い疑問を抱いている。

上場企業経営者が最も恐れているもの

私は大学卒業後、約38年間にわたり、ドラッグストア、調剤薬局、介護事業の経営に携わってきた。
その経験から、上場企業の経営者が何を最優先で考えているかは、ある程度分かる。

それは株価である。

株価が「割安」と判断されれば、
アクティビストや外資系ファンドによる買収リスクが一気に高まる。
そのため、自社株買い、配当政策、M&Aなど、株価を下げないための施策が経営の中心になりやすい。

本来あるべき姿は、本業の生産性を高め、強みを活かした新たな価値創造によって、結果として企業価値が上がることだ。
しかし、残念ながらドラッグストア業界において、その方向で業界を変えようとする経営者は、今のところ見当たらない。

統合で誕生した巨大企業は、国民に何を還元するのか

今回の統合で、2兆円を超える巨大ドラッグストアが誕生した。
だが、国民にとっての具体的なメリットは、どこにあるのだろうか。

発表された戦略は、

  • 食品売上比率を高める

  • ディスカウントストアなど他業態への対抗

  • 仕入れ規模拡大によるコストメリット

といった内容が中心だった。

これらは、これまでドラッグ業界が繰り返してきた戦略と大きく変わらない。
そこに「医療」や「地域社会」という視点は、ほとんど見えない。

調剤薬局は、誰のために存在しているのか

私は、ドラッグストアの経営者に問いかけたい。

調剤薬局を、どのような理念で経営しているのか。

調剤薬局は、国の公費や国民から徴収された保険料によって成り立つ医療保険制度の一部である。
つまり、純粋な民間ビジネスである以前に、社会インフラの一翼を担っている。

にもかかわらず、今回の統合発表では、

  • 調剤薬局の役割

  • 地域医療への貢献
    についての言及は、ほとんどなかった。

 

 

ドラッグストアの現場で感じる「知識の空洞化」

私は最近のドラッグストアの在り方に、大きな違和感を覚えている。

店舗で登録販売者に薬について質問しても、
納得のいく説明を受けられることが、非常に少ない。

例えば、テレビCMでおなじみのビタミン剤「アリナミン」。
多くの店舗に4種類ほど並んでいるが、その違いを明確に説明できる登録販売者に、私はこれまで出会ったことがない。

OTC医薬品は、副作用などの健康被害を引き起こす可能性もある。
だからこそ、OTCを扱う登録販売者の責任は重く、より高度な専門知識と販売技術が求められる。

経営者は、登録販売者の実力を把握しているのか

ドラッグストアの経営者は、自社の登録販売者が、

  • 店舗で扱っている医薬品について

  • どの程度の知識を持っているのか

本当に把握しているだろうか。

大手ドラッグストアには、

  • 薬剤師

  • 登録販売者

といった医薬品販売の有資格者が、数千人、数万人単位で在籍している。
しかし、その人的資源が、地域社会で十分に活かされているとは言い難い。

高齢化社会で、薬剤師の役割はもっと重要になる

日本は急速に高齢化が進み、2030年には団塊の世代が80歳を超える。
社会保障制度は、多くの課題を抱えながらも、決定的な解決策は見つかっていない。

地域包括ケアシステムが提唱されて約20年。
高齢者が住み慣れた地域で生活を続けるためには、
医師、看護師、介護福祉士、ケアマネージャーなど、多職種連携が欠かせない。

その中で、薬の専門家である薬剤師の存在は、極めて重要だ。

介護現場にこそ、薬剤師が必要だ

多くの高齢者は、

  • 複数の慢性疾患を抱え

  • 多くの薬を服用し

  • 毎月医療機関に通っている

一方、介護現場で働く人たちは、薬の知識が十分とは言えず、健康管理に苦労している。

本来であれば、薬剤師がもっと介護現場に足を運び、高齢者の生活を支える役割を担うべきだ。

しかし現実には、上場ドラッグストアの経営者は、
「訪問業務は生産性が低い」として、消極的な姿勢を取りがちである。

利益が1〜2%下がっても、会社は倒産しない

私は、何千億円規模の企業経営の数字を、現場で見てきた。
はっきり言えるのは、

経常利益が1〜2%下がったからといって、会社は倒産しない。

それよりも重要なのは、

  • がんや難病で苦しむ人に寄り添う地域医療

  • 高齢者の生活を支える仕組みへの投資

  • 薬剤師が本来の力を発揮できる環境づくり

ではないだろうか。

人的資産への投資こそが、企業価値を高める

薬剤師が調剤薬局の外に出て、医療や介護の現場で活躍することを、
「コスト」や「非効率」と捉えるのは短絡的だ。

それは、

  • 人的資産価値の向上

  • 企業の社会的評価の向上

  • 結果としての株式時価総額の向上

につながる投資である。

薬剤師には、勉強熱心で地域貢献意識の高い人材が多い。
そうした人材は、志の高い経営者のもとで働きたいと願っている。

いま求められるのは「志あるドラッグストア経営者」だ

資本政策だけに目を向ける経営から、
社会的意義を起点とした経営へ。

ドラッグストアと調剤薬局が担う役割を深く理解し、
新しい付加価値を創造できる経営者が、今こそ求められている。

私は、
高い見識と志を持ったドラッグストア経営者が現れることを、心から願っている。