高齢者の交通事故の現状

2022年3月23日の日経新聞夕刊によると、2021年に車やバイクを運転して交通死亡事故を起こした75歳以上のドライバーのうち1.5%の人が、免許更新時に「認知症の恐れ」に当たるとの判定、さらに42.5%の人が「認知機能の低下の恐れ」に当たると判定されていたことが、警察庁のまとめでわかった。

 

人間というものはなんと愚かな生き物だろうと思わずにはいられない心境だ。

確かに認知機能は徐々に低下していくようなので、なかなか本人は気づかない。

 

しかし、運転免許更新時に判定されているにも関わらず、75歳以上になっているにもかかわらず、運転して死亡事故を起こすとは、いったいどのような神経をしているのか?

 

認知症の疑いありと判定された人は論外としても、免許更新時に認知機能低下の恐れあり、と判定されたことは、死亡事故を起こす可能性がきわめて高いこと、その意味を認知する機能も衰えていると考え、まわりは行動するべきではないだろうか?

 

この運転免許自主返納問題は決して他人ごとではない事を、社会はもっともっと認識するべきだ。

 

本人だけでなく、家族の人生にも影響する

 

身内にそのような困った高齢者がいない人は、この記事を読んでいても関心は薄いかもしれないが、よく想像してみてほしい。

自分のかわいい孫や子供、パートナーが、元気に会話した後、突然の事故に巻き込まれたら、人生が大きく暗転することを。

ミニチュア・家族イメージ

大都会の公的な交通網が発達した環境と違い、地方での暮らしに自動車やバイクが欠かせないことは十わかるし、核家族化で高齢者世帯が多い現実をみれば、高齢者といえども運転せざるを得ない環境だろう。

 

従って、国や地方自治体も、高齢者の生活を考えた公共交通の整備や、高齢者が暮らしやすい街づくりは欠かせない。

 

スマホを利用する便利なインフラ整備やデジタル革命は、高齢者にとってはハードルが高く不便になることが少なくない、それよりも地域を循環する足を確保するためのインフラ整備を急ぐことが重要だ。

 

脱マイカー依存やコンパクトシティをめざした、Maasという言葉が新聞でも目にする機会が増えた。

 

Maas概念から見る事例

 

フィンランドから生まれたMaasという概念も日本各地で実践され、その報告を見ると、マイカーに代わる移動手段を整備し、利用促進に向けた政策とともに実践することで、買い物や移動に困っている高齢者の利用が増え、高齢者の健康維持にもつながっていることがわかる。

 

一例をあげると、富山市の例がわかりやすい。

私も40年近く前だが、学生時代富山に住んでいたことがあるので、報告書がとてもよく理解できた。

 

富山市は平たんな土地に道路網が整備されているため、県庁所在地でありながら、空洞化が目立ち、市町村合併で面積も拡大したこともあり、人口密度が低い地方都市だ。

さらに、豪雪に悩まされることもあり行政コストも高くなりやすい。

 

そのため、高齢者には大変住みにくい町が多く、公共交通の整備がなにより優先課題だった。

 

富山市は北陸新幹線開通に合わせて、低床車両で快適性にすぐれたLRTと呼ばれる公共交通網を整備し、富山市をコンパクトに高齢者でも利用しやすい街づくりにする挑戦をした。

LRTが整備されてから15年ほど経った年における検証データから見えてきたことは、利用率でいうと24%前後の数字だが、高齢者の健康状態に維持や高齢者医療費の面では、予想以上の結果が出ているようだ。

 

富山市の例をみると、生活スタイルや人口の変化に合わせて、自治体が公共交通整備に対して何もせずにいると、高齢者は動けなくなり介護や医療費など様々な行政コストは上昇するが、一方でMaasの概念を取り入れ、人や環境にやさしい公共交通網の整備への投資は、活気ある街づくりと市民の健康増進につながる、リターンが大きい先行投資になることがわかる。

 

全国各地で路線バスの廃止が進み、鉄道の赤字路線の廃止が続くことは、高齢者が家から出にくい環境が広がり、運動不足と人との会話や交流が減るため、高齢者の体力の衰えや認知症が進みやすくなるだろう。

 

このような環境を野放しにせず、Maasへの投資の例にみるように、思い切った公共交通網整備への投資を実行することは、高齢者のみならず、若者、旅行者が集まる活気ある街づくりの基本であるように感じられる。

 

いつまでもリモート気分では、よい創造力は生まれない、街に出て足を動かして、人と交流して経済を動かそうではないか。

2022.06.04

カテゴリー:メディア
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