心からの感謝
久子さんが安心して暮らせるように支えてくれているのは、医師や看護師だけでなく、洗濯や掃除、食事の用意、入浴介助といった毎日の生活に必要なことを支えてくれる、たくさんのヘルパーさんたちだ。
本当は家族か本人がやるべき日常生活におけるいろんな行為を、これまでは会ったこともない他人が、自分たちがやるよりもきちんと、大変丁寧にやってくれている。
それも、高齢者から罵声を浴びることがあり、ときには盗人扱いされ、理不尽な思いをたくさんしながら、でも笑顔で対応してくれるのだ。もちろん、耐えられずに虐待してしまう人もいるだろう、仕事を辞めていく人もあるだろう。
ヘルパーさんが久子さんのベッドのシーツを交換してくれた。手際よく短時間でとってもきれいになった。
横から久子さんがいろんなことに口をはさむので、見ている息子としては、邪魔しちゃ悪いから静かにしていようよ、と言いたくなるくらい。
でもヘルパーさんは手を動かしながら、久子さんの話にも相手をしてくれるのだ。
ぼくはできるだけ口をはさまず、二人の会話を聞いていた。
『あら今日は元気そうね、顔色がとってもいいわよ』
『そうなの!聞いてよ!昨日まで寝たっきりでごはんも食べられなかったでしょ、でもね、今朝おきたら急にこんなに元気になったのよ。いつ死んでもいいと思ったけど、もう少しがんばろうかしら』
『何を言ってるの、久子さんは100歳まで生きると思いますよ』
『そうぉ?でも、こんなおばば、まだ生きていたのかとみんなから笑われるわよ』
『大丈夫ですよ、久子さんはかわいい、って評判ですよ』
久子さんは急に顔をくしゃくしゃにして、最近では一番うれしい表情を作っていた。
息子のぼくだったら、『そだね、うるさいばばー、って評判にならないように気をつけてよ』と言ってしまい、久子さんに、うるさいばばーの表情を作らしてしまうだろう。
そうなのだ、この対応の違いで、認知機能が衰えてしまい、人生の後半に辛い思いをしている人たちが、豊かに楽しく暮らせるか、それとも地獄のような扱いを受けながら生き続けることになるか、変わってくるのだ!
直前に起こったことでも忘れてしまう記憶障害や、何月何日で今どこにいるのかわからなくなる認知機能が低下していても、「うれしい」「つらい」「怖い」といった感情は衰えていないようだ。
だから、いつも怖い顔で叱られてばかりでは症状が悪化してしまうらしい。
ヘルパーさんありがとう!!
改めてヘルパーさん本当にありがとう!皆様のおかげで家族は安心して日常の生活を送ることができます。
久子さんはそのヘルパーさんにいつものように聞いた
『ところでヘルパーさんはおいくつ?』
『はい、25歳です』
これも手慣れた返事だが、手際よく鯖まで読んではいけない。
山田君、ヘルパーさんの座布団2枚とりなさい!
2022.06.01