久子さんの兄弟

久子さんは男1人女3人の4人兄弟で末っ子。

 

3人の女性は非常に個性の強い、それぞれ性格の違う姉妹である。長男と次女は既に他界したが、90歳を過ぎた長女はロサンゼルスで元気に暮らしている。

 

長女はとてもしっかりしていて、個性の強い兄弟の中では最も常識的な賢い人。ぼくが子供のころから大好きな伯母さんだ。

 

伯母さんはゴルフが好きで、ぼくも一度だけロサンゼルスで一緒に回ったことがある。その時にむかし話をしてくれた。

 

小学校か中学校のころ、父がクラスの代表で答辞を読んでいるのを見て、すごく頭のいい人だと感じていたらしい。まさか妹と結婚するとは思わず、とても嬉しかったと話していた。

いきなり、

 

『ちゃーちゃん(久子さんは、ちゃーちゃんと呼ばれていた)は初めて好きになった人と結婚したのよ!』

 

と言われた。息子のぼくはドキドキしてしまった。

 

『ちゃーちゃんは、いい旦那さんと、いい息子さんと、いいお嫁さんと、いいお孫さんに恵まれて本当に幸せもんだわ!』

 

ロサンゼルス滞在中、叔母さんはこの事を何度も口にしてくれた。若い頃、伯母さんは日本に来ていたアメリカ陸軍の軍人さんと知り合い結婚をしてアメリカに渡った。日本で洋裁学校に通って磨いた技術と器用さを見込まれ、ロサンゼルスの有名デパートで働いていた。

 

どうやらミックジャガーの奥さんのドレスも直していたらしい。

 

旦那さんはベトナム戦争で地雷を踏み足に大けがをした。伯母さんは、小さな子供を抱えて死のうと思ったと語っていた。

 

伯母さんの旦那さんは明るくて面白い人だ。

カラオケで瀬戸の花嫁を歌うことが好きだった。

『せとはーひぐれてー、らららーららーらーら』

そこしか歌えなかったが、とても楽しそうに歌っていた。

 

日本に遊びに来ると、父がアテンドして温泉や観光地を案内していた。旦那さんは片言で話していたが、父の会話はとても盛り上がり、2人はたらふくお酒を飲んでいた。

その旦那さんは15年ほど前、がんで亡くなった。

 

伯母さんと久子さんが元気なうちに、久子さんをロサンゼルスに連れて行こうと計画をしたがコロナ禍で中止になった。ぼくも伯母さんに会いたい。何よりも久子さんと伯母さんを会わせてあげたいと思っているだけに、非常に残念だ。

 

ロサンゼルスではいとこが伯母さんと一緒に暮らしているから安心している。伯母さんにはまだまだ元気でいてほしい。

 

久子さんに伯母さんの話をすると、

 

『のっこちゃん(お姉さんのニックネーム)元気か?』

 

それしか言わないが、もう20年近く会っていない・・。

 

やはり寂しそうな表情を浮かべている。

2022.05.11