高齢者を狙う詐欺
もう2年ほど前のことだが、久子さんは高齢者を狙った特殊詐欺にあった。
今思うと、一人暮らしの認知症高齢者をだますのは、子供より簡単だ。
なぜなら、知らない人から声かけられても
『○○しちゃだめよ』
がきかないから。
特に久子さんは、知らない人でも平気で反応して、話すのが大好きだ。久子さんに限らず、いまどきの高齢者にとって寂しさをいちばん癒してくれるのは、よく話を聞いてくれる人。
そう、それは悪いことを企んでいる人だろう。
ある日、ぼくの自宅に郵便局の関係者から何回か留守電が入っていた。
これはオレオレ詐欺?
翌日、タイミングよくぼくが電話を取ることができたので、
しかし、これはただごとではない。
電話で話を聞きながら、10分ほどしたところで、いったん信じたほうが得だとわかってきた。
どうやら久子さんの、ゆうちょ銀行の口座から何回か不審な引き落としがあり、強制的に口座からの引き落としをストップしました、というような内容だ。
口座から現金を引き出すには、通帳かキャッシュカードと暗証番号が必要。
とにかくすぐに久子さんのマンションに向かった。
ん?!ない!ないぞっ!
あーーーー!!!!!やられたーーーー!!!
被害総額?
引き落とし限度額10万円を3日間、総額30万円な~り~
『久子さん、いつも大事に財布に入れていたキャッシュカードはどうしたの?』
『どうもしないよ、財布の中にあるでしょ』
『ないよ!?だから聞いているんだよ!』
感情が高ぶるのをなんとか必死に抑えながら、ぼくは一つ一つ丁寧に優しく優しく久子さんに確認をしたが、久子さんは自分のキャッシュカードのことは全く覚えていない。
電話でこのことを連絡してくれた担当の人は、
『被害届を出しますか?』
と言っていたが、本人は被害にあってしまうまでの経緯を全く覚えていないから、被害届の出しようがない。
息子(身内)を犯人としたがる
『久子さん、だれかキャッシュカードや銀行の通帳のことで訪ねてこなかった?』
『大事なキャッシュカードはどこにいったのかな?財布の中にはないよ』
『あんたがどこかにやったんでしょ!あんたしかいないじゃない!』
『あのね、よく聞いてね。だれか知らない人が久子さんのキャッシュカードを使って30万円を引き落としたみたいで、郵便局が知らせてくれたんだよ。』
『思い出せないかなぁ?知らない人が郵便局か銀行の人を装って、「キャッシュカードをみせてください」とか、「キャッシュカードがつかえなくなります」とか、そんなことなかった?』
『だれも来てないわよ、来るのはあんたしかいないでしょ!だからあなたが勝手に私の財布から持って行ったんでしょ!!』
『昔から決まっとるわ、お金を盗むのは身内の者と』
『じゃあ盗んだのは、ぼくか弟のどちらかということになるよ?』
『そうだよ、どちらかにきまっとるわ』
高齢者虐待、加害者の気持ち
もうこれ以上のことは書きたくないが、少しだけ、少しだけだけど、高齢者虐待の加害者の気持ちがわかったような気がする。
くやしさ、なさけなさ、親子間の不条理、そして重くのしかかる悲しさ、終わりの見えない不安。
どこにもぶつけることができないこれらストレスは、行き場をなくし、目の前の親に向けるしかできなくなる。
コントロール不能に陥って飛行機が墜落するように、親を殺してしまうのだろう。
虐待は被害者の視点で見られることが多いが、加害者目線で物を見ることも大事だと思う。
神様は人間の最終章になぜこんな過酷なコンテンツを用意していたのだろう。
この件で久子さんと長く話すことは、二人の関係を悪くするだけだ。
これ以上の進展はないと判断をし、近くの郵便局に向かい、今後のことを相談した。
2022.04.11