久子さんは昭和11年生まれのねずみ年。

70歳くらいまで小売店で働いていたこともあり、よくしゃべる超〜元気なぼくの母『久子さん』。

 

2015年に父が亡くなってから、いや、父の看病をしている途中から久子さんは認知症を発症し、家族を混乱の渦の中にまきこんでいる。

 

一人暮らしは危険なので高齢者施設に入ってもらいたかった。兄弟で久子さんを説得し続けたが、どんなアプローチしても無駄だった。

 

久子さんは

 

『施設に入るくらいなら小田急線にとびこんで死ぬ!』

 

が口癖だった。この口癖が出ると、ぼくは無視をして帰ることにしている。

 

口癖を初めて聞いたのは父が闘病中だった頃。まだ元気で一緒に食事をしていたときのことだった。

ぼくは驚いて何度も

 

『そんなことを言うもんじゃない!』

 

とか

『たくさんの人に迷惑をかけるでしょ?』

 

心の中では

『せめてベランダから飛び降りるくらいにしてくれ・・・。』

 

とか、心配して話しかけていたが、久子さんは部屋を飛び出していった。

 

ぼくは、追いかけようかと思ったが、父は不思議と平然としていた。ぼくたちは、何もなかったように別の会話をした。

 

30分以上たっただろうか、久子さんが戻ってきた。

 

管理人さんのところに行ってきたとのこと。管理員さん、ごめんなさい・・・。そしてありがとう。

 

父へのねぎらい

今思うと、父は既に何度もこの口癖を聞いていたのかもしれない。

 

『長い間、ご苦労様でした。』

2022.02.13