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久しぶりに。
ある日曜日の午後、いつものように久子さんを訪ねて、あおぞらの玄関の前まで行くと、止まっていた車のドアが開いて、見覚えのある顔の男性が降りてきた。
「兄貴、ちょうどすれちがいだね、ぼくはこれから帰るところ、おっかちゃん元気だったよ。」
「あっそぉ、それはよかった。」
急だったので、久しぶりに顔をあわせた兄弟だが、気の利いた会話もできなかった。
「帰りの運転気をつけて」
「ありがとう、じゃあまたね」
姉妹だったら、しばらく立ち話もあるのかもしれないが、男兄弟だからか、ほんの30秒ほどの時間だった。
久子さんの部屋を訪ねると、明るい顔の久子さんが迎えてくれた。
「あらまぁ珍しい人が来てくれたこと」
「最近は誰も来ないから、とても嬉しいわ」
「え、冗談でしょ、今、玄関で弟にあったよ」
「あの子、来てくれたのかしら、そうなの?でも覚えてないわ」
以前だったら、ほんの少し前のことなのにどうして覚えてないのか!と問い詰め、子供に馬鹿にされたと悲しむ母親と嘆き悲しむ息子の哀れなバトルが繰り返されたものだ。
今はお互い穏やかに対応することができている。
正月弟に会った時に聞いたことだが、ヨシヒロなんか何年も会ったことがない!と言っているとのこと。
今は笑い話として受け入れられる。
時間がかかったが、今は成長したなと自負している。
久子さんはまだまだ育ち盛り??
2年前の無料介護相談を始めた時、認知症を患った人ににやってはいけない対応を、教科書に書いてあるように伝えていたが、自分はできていなかった。
この恥ずかしくも情けない感情が、さらに追い打ちをかけ久子さんに当たっていたように思う。
とにかくひどい虐待にエスカレーターしないで今に至ったことは神に感謝したい。
部屋に入ると、弟が持って来てくれた有名店の最中が、8つ入の内3つがなくなっていた。
「美味しそうな最中、弟が持ってきてくれたんだね、美味しかったでしょ」
「あらぁ、ほんとに美味しそうな最中、誰が持ってきてくれたのかしら、早速たべましょ、あんたもひとつ食べる?」
さすがに、食べ過ぎによる胃腸の不具合が心配、なぜならさらに3つくらい食べそうな勢いだからだ。
「あと少しでご飯の時間だから、その後まで我慢した方がいいよ」
久子さんの目と口が我慢できない!と訴えている。
「今日の夜の献立は、久子さんが好きな焼き魚だから、もう少しだけ我慢しようか」
その時、部屋のチャイムが鳴った
「すみません、先ほど弟さんが来られたとき、ご兄弟よく似てらっしゃるので、お兄様だと勘違いしてお伝えしたんですが、実は、、、」
ヘルパーさんが費用の計算を300円ほど間違えて請求したとのこと、そのことを報告してくれた。
マスクをしているから、似ている兄弟は見分けがつかないかもしれない、後で私が来たことで、ハッキリしたようだ。
いつも良くしてくれるヘルパーさん、忙しい中、複雑な計算のミスをきちんと修正して報告してくれた。
本当にありがとうございます。
部屋に戻ると、最中が2つ消えていた。
育ち盛りの、わんぱくな小学生か!?

2024.02.27