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新年のご挨拶
今年のお正月も、元旦に久子さんに会おうと、家内と二人であおぞらに向かった。
家内が言うには、久子さんはおせち料理の中で一番好きなのは、伊達巻きだそうだ。
一昨年のお正月は、セブンイレブンの美味しいおせち料理を持参して喜んでもらう予定が、入れ歯がぐらつき、噛みきれない食材ばかりで、高級食材はほとんど食べられなかった。
昨年のお正月は、訪問した翌日判明したことだが、久子さんがコロナに感染しており元気がなく、持参した料理にほとんど手をつけなかった。
こんな経緯から、今年のお正月に持参する食材は、最近ハマっているコンビニのプリンと、家内が推薦する伊達巻にしぼって、今年こそは!との思いで久子さんの部屋のチャイムを押した。
「はあーい!」
お昼の食事を終えたような時間なので、元気そうな声がドアの向こうから聞こえ、しばらくするとドアが少しだけ開いた。
見えたのは血色がいい久子さんの顔だった。
「あけましておめでとうございます」
久子さんはキョトンとした顔だったが、ぼくの顔と家内の顔を見て、嬉しそうに叫んだ。
「あらまぁ、久しぶりに二人の顔をみたわ、元気にしてたの?、何年振りかしら、さぁ入って入って」
「みんないくつになった?」
「今日は一月一日、元旦だよ。新年の挨拶に来ました。」
「あら、そうなの?お正月?なんにも用意していないよ、早く言ってくれたら準備したのに。」
いつもの久子さん節、声は明るく元気そうなので、安心した。
好物を目の前に
「お正月だから、久子さんが大好きな伊達巻を持ってきたよ、食べて!」
有名店で買った伊達巻は長さが15センチほどあり、重厚感と老舗感を醸し出していた。
用意してきた包丁で丁寧に切ってあげると、そこにはよだれをたらさんとばかりに、伊達巻を見つめる久子さんの顔があった。
「はい、どうぞ召し上がれ」
お正月しか食べることがない伊達巻、それも何年振りかの伊達巻、見るから美味しそうな伊達巻、そんな声が聞こえてきそうな久子さんの口、だが無言のまま手を伸ばして、大きな口を開けて食べ始めた。
入れ歯がカタカタなっているが、噛んで飲み込むスピードは、まるで最近ハマっているコンビニプリンと同じように早い!
「なんて美味しいの、これ特別の食べ物でしょ」
「お母さんが大好きな伊達巻ですよ。元旦に食べてもらおうと思って買ってきました。」
家内が説明すると、さらに食べるスピードが上がったように見えた。
一切れ、二切れ、三切れと進んだ。
お昼の食事を食べ終えてまだ1時間も経っていないので、一切れくらいしか食べられないだろうと思っていた。
「そんなに食べて大丈夫?お腹壊さないかなぁ?もうそのぐらいにして、残りは明日にしたら」
「うんわかった、そうする」
三度目の正直、久子さんへの正月おせち料理作戦は大成功だ!
そんなに美味しいのか?と思い、久子さんに断って、ぼくも一切れ食べてみた。なるほど!と思っていると、久子さんは残りの伊達巻に手を伸ばし、また食べ始めた。
ぼくに食べられたくないのだろうか?
結局、久子さんは持参した伊達巻12センチを平げた。知らなかった、この年になってはじめて母親の好みを知るなんて。家内はしっかり見ていたのだ。この食欲、やっぱり100歳を超えるだろう。
どうやらぼくの健康寿命がキーワードになってきそうだ。
2024.01.17