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こんなこと初めて
久子さんはコンビニで買うプリンにハマっている。
久子さんの部屋を訪問し、ドアを開けて最初の表情がどんなであれ、プリンを見せた瞬間には目を輝かせ、まるで小さな女の子が暖かいお花畑にいるようなルンルン気分を見せてくれる。
どら焼きの比ではないのだ。
今日もコンビニプリンは2分ほどで、カップの中から姿を消した。
「あーうまい!」
あっという間だった。
「よかったね、美味しいものを食べられるのは健康な証拠だね」
満面の笑顔の久子さんを見る楽しみが増えて、必ずプリンを買ってくることにしている。
と思っていたら・・
「なんか胸のあたりがシクシクする」
「えっ!どのあたり?痛いの?」
「こんなこと初めてよ、なんか変よ、どうしたのかしら」
胃よりやや上のあたりをさすっているので、胸やけかな?と思いながら、温かいお湯を飲ませることにした。
「もうすぐ食事の時間だけど、食べられる?」
急げ!!
「どうしたらいいかなあ、なんかシクシクして、少し痛い」
冷たいプリンを一気に食べていたので、空き腹に刺激になって、一時的な症状だと思うが、困った。しばらく様子を見ていると、頑張って食べにいくと言うので、食堂に連れて行き椅子に座らせた。
「じゃあ薬買ってくるね、食べられそうなら食べていてね」
「うんわかった」
食堂で見せるいつもの久子さんの笑顔はなく、心配そうな表情に、そばにいたほうがいいか迷ったが、念の為ドラッグストアに向かった。寒い北風がふく夕方だったが、歩いて10分ほどの店で、胸やけ胃の痛み用の薬を買って、急いであおぞらに戻った。
食堂に入った瞬間、いつもの笑顔の久子さんがいた。
「あらー久しぶり、うちの息子です、何年ぶりかしらね、あんたいくつになったの?」
「ねえねえ、見て見て、こんなにきれいに食べたのよ!すごいでしょ」
久子さんが言う通り、ご飯粒ひとつ残っていなかった。
「そんなこと言っていないよ、大丈夫よ、だってこんなにきれいに食べたよ、美味しかったー」
寒い中急いで薬を買いに行った苦労より、久子さんの胸の痛みが治って、いつもの食欲全開の姿を見せてくれた安堵感が大きく勝り、自然に笑顔になっている自分がいた。
87歳を超えて、今後何が起こるか心配だが、美味しい美味しいと食べてくれる姿を見ると、本当に安心する。
いいから、久子さん長生きしてくれ!
2023.12.27