変化

孫が生まれてからは、ぼくの人生、楽しみ方が大きく変わってきた。

 

何か嫌な事があったときでも、孫と一緒に遊んでいる動画を見るだけで簡単に気分をコントロールできることを覚えた。

 

久子さんも15年ほど前までは、孫に対する愛情は大きく、ごちそう、おもちゃ、おこづかいなど、孫が喜ぶものは何でも与えてしまう、親からすると教育上困ったババだった。

 

今のぼくも、孫がやることで良くないことにはダメだよ!と言うのが、その言葉には厳しいトーンがないため、孫は楽しんでいるように笑ってやめようとはしない。

 

孫から見れば、ジジは何でも聞いてくれる便利な存在、大きなおもちゃとして各付けしているのか、ジジは完全になめられているのだ。

 

だから、ぼくも教育上よろしくない存在となっていることは間違いない。

 

そんな久子さんも今では、『あんたのところは男の子だっけ?』と孫の存在すらはっきりしていない。

 

この言葉を聞くと、あんなに孫の世話をしてくれたのに、と寂しくなってしまうが、写真を見せると『もうこんなに大きくなったの』と思い出してくれるので、まだ大丈夫!と心の中でつぶやくことにしている。

久子さんの部屋に飾ってある多くの写真の中で、一番目立つ存在になっているぼくの息子の結婚式の写真を見せると、目を細めて、『まあなんて素敵な写真だこと!みんな元気でよかった』と喜んでくれる。

 

息子と久子さん

ぼくの息子は仕事が忙しい年代でもあり、久子さんが認知症になってからは、どうしても久子さんと疎遠になってしまっている。

 

あんなに小さい頃よくしてもらったのだから、もっとババの所に行って顔を見せてあげてよ!と言いたいところだが、共働きで2歳の子どもを保育園に通わせている大変さを見ていると、ババの方はぼくがきちんと見るから自分の家庭をしっかり守ってほしい、と思う。

 

息子と久子さんのことを考えると必ずと言っていいほど、47話で紹介した石川県の旅行のことを思い出して笑ってしまう。

 

石川県で泊まったホテル、部屋に久子さん一人は危ないので、誰が一緒に寝るのか、事前の計画では僕が久子さんと一緒の部屋だった。

 

しかし、石川県まで久子さんを乗せて車を運転している8時間ほどの間、様々なトラブルを起こしてくれたため、飛行機で移動していた家族が気をきかせてくれて、息子が一緒の部屋で寝ることにしてくれたのだ。

 

『お父さん、道中大変だったみたいだから、ゆっくり休んで』

 

息子のこの言葉にぼくの心は、感謝の気持ち半分、息子よ覚悟しておけよ!という意地悪な気持ち半分が混ざった愉快な気分になっていたことを覚えている。

 

息子よ!今のババは最強だからな、何が起るか、ふっふっふ!

 

言葉と態度には出さず心の中でさけびながら

 

『ありがとう!たまにはババといろんな話をして楽しんで』

 

『うんわかった、小さい頃の話をしながらババ孝行するよ』

息子は元気にババとともに部屋に向かって行ったのだった。

 

翌日、疲労した顔で現れた息子の様子についてはぜひ47話をご覧いただきたい。

 

【第47話】大変だった墓参り・その2

 

もし久子さんが認知症になっていない優しいおばあちゃんだったら、息子夫婦やその子供と楽しい時間を過ごしたり、得意の手料理も作ってくれたり、みんな喜んでくれただろうな。

 

そんな風に想像しながら現実を思うと、久子さんの人生が可哀そうになり、つい病気を憎んでしまう。

 

人が喜んでくれることを見るのが一番幸せ、久子さんの行動を表す言葉で最もふさわしい表現だと思う。

 

そんな久子さんの幸せが薄くなってしまった現状、何か別の幸せを見つけてあげたい。

 

今の所できることは、家族の写真を部屋にたくさん飾って、家族の思い出話をしながら、久子さんの当時の幸せな気持ちを思い出してもらうこと。

 

そしていつまでも家族のことを忘れないようにすること。

 

そんなことを考えていたら、久子さんがつぶやいた。

 

『あんたの写真がいちばん大きくて、いい顔した写真だね』

 

久子さんがさしてその写真は、父の遺影に使った写真を指していた。

 

やはりⅩデーは足音をたてて近づいているようだ…。

2023.07.21