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「あおぞら」を訪れて
今日はあおぞらへ行く日。
食事の時間帯に行くので、多めにお菓子を持って一緒に食事をしている人たちに配ろう。
そう思ってスーパーで、小さなお菓子がたくさん入っているお手頃のお菓子袋をいくつか買った。
あおぞらに到着して直ぐに食堂に向かった。
そして、久子さんに挨拶してから10人ぐらいの人たちにお菓子を配った。
その中の一人の男性が本当にうれしそうに話しかけてきた。
『石川県の小松の人でしょ』
一瞬声が出せないくらい驚いた、どうしてぼくのことを知っているんだろう?
念のために言っておくが、ぼくはテレビに出ているような有名人ではない。
久子さんがドタキャンした石川県の墓参りの帰り、あおぞらに寄って、食堂でお土産のお菓子をに配った時だ!
その時に、一人の男性の方がお菓子の包装を見て、石川県の小松が懐かしいとおっしゃっていたのだ!
小松空港の自衛隊基地に勤められていたお話をされていた。
お話をしていると、80歳を超えているがお元気で認知症とは無縁のようだ。
久子さんの至福のとき
あおぞらという施設は、認知症を発症した方々でも入居できるように考えて作られているので仕方がないことだが、認知症とは無縁な方々には申し訳なく思ってしまうことがよくある。
あおぞら設立に向けてぼくが計画を立てていたので、変な責任を感じてしまう。
そのような気持ちもあり、その男性のお話を丁寧に聞こうとした。
だがしかし、その様子を見ていた久子さんは、当然のごとく二人の会話の中にズケズケとドヤ顔で割り込んでくる。
『うちの息子です。』
『男ばっかりなんですよ、うちは女の子一人もいないんですよ』
『ところであんたいくつになったの』
心で叫んでみたが…どうしようもない。
その男性は、お菓子のお礼を言いながら食堂を出ていった。
『あら~、男の子はいいじゃない!女の子と比べて素直よ』
いつも久子さんのお隣に座っている女性が会話に加わった。
『そうね、そうね』
久子さんのどや顔が満面の笑みに変わった。
その後久子さんは、聞いていて恥ずかしくなるような子供のころの話を、ぼくの知らない女性たちに繰り返し話していた。
とにかく久子さんは息子の自慢話をしたがるので、とてもじゃないが、ぼくは近くに居られなくなる…。
早めに帰ることにしよう。
『今日はこのあと仕事があるので、また来るね』
『この人忙しい人だから、昔はねーーー』
長くなりそうなので、急いで食堂を出た。
でも今日は食堂にいる何人かの人から自分の息子を褒めていただいたので、久子さんにとっては至福の時間となったようだ。
今日の久子さんのキャラを名付けるとしたら、ニコニコばんば、かな?
2023.02.15