長い旅の計画

弟に電話をかけた。

 

久しぶりなので、スマホに登録されれる番号が使われているのか心配しながらかけてみたら、思いのほか直ぐにつながった。

 

『もしもし?よしひろだけど、久しぶり!』

 

『久しぶり!兄さん。おっかちゃんになんかあったの?』

 

兄貴の突然の電話に弟は驚いた様子。

 

弟も定期的にあおぞらを訪問してくれていたが、コロナが勢いを増したため、なかなか行きづらかったようだ。

 

『実は、久子さんを墓参りに連れて行こうと思っていて電話したんだ。』

 

『一人で連れていくには自信がないので、二人で行きたいと考えたんだけど、休みとれるかな?』

 

『そうだね、いいんじゃない!!もちろん協力するよ。』

 

弟も、これで最期かもしれないと思ったようで、予想通りに喜んで賛成してくれた。

弟と私と父の3人は同じ大学を卒業した薬剤師。

 

そしてなんと、弟の妻も同じ大学。なので4人が同じ大学を卒業していることになる。

 

弟は昔からぼくの何倍も優秀で、現在は薬学博士として薬学部で有機化学を研究している。弟の休みは8月のお盆にまとめて取れるとのこと、帰省ラッシュの時期にぶつかるが、それ以外でのまとまった休みを取ることは難しいようだ。

 

これで日程は決まった。

 

8月12日の朝、埼玉県の狭山市を出発。

 

圏央道、関越道、長野、新潟、富山を通り、石川県までの約600kmを車で移動して、夕方につく計画だ。

 

予約完了で準備も万端!!

31話で書いた通り、父は7人兄弟で、5人は亡くなっていることもあり、回りたいお墓は7か所あるため、1日がかりになるだろう。

 

石川県2日目にお墓をゆっくり回る計画なら、久子さんもなんとか7か所ついてこれるかもしれない。

 

どこかでギブアップしたら、そこで中止するしかないだろう、ご先祖様に優先順位はつけたくないが、許してもらおう。

 

3日目は早めに出発して、関越道の混雑をさけ夕方には狭山のあおぞらに到着したい、このような2泊3日のスケジュールをたててみた。

 

伯父さんや伯母さんにも連絡して、もう最後かもしれないので一緒に墓参りをお願いした。お盆の時期、それぞれの家族にはそれぞれの事情があるにもかかわらず、みなさん快く時間を空けてくれた。

 

泊まるところは、久子さんと一緒に3人が泊まれる大きな部屋を探した。

 

3か月前の準備だが、計画はお盆の時期だから、どこも満室で値段も高い。その中でいい宿が見つかった。

 

加賀市の

 

山代温泉のホテル百万石

 

昔から有名なホテルで、現在は庭園になっているが子供のころはホテル内に大きな丸いプールがあり、小学生のころ久子さんに連れられて、よくプールだけ入りにいった覚えがある懐かしい場所。

 

そして久子さんにとっても、仕事の関係や地域のイベントで何度も泊まったことがある故郷の温泉ホテルだ。少し値段は高いが、久子さんの人生の中でも大きなイベントになるから、お金の問題ではない、いかに思い出として家族みんなで刻むことができるかだ。

 

このホテル百万石は、現在の経営者は変わったが、創業者はすごいホテルを作った人で、バブル期は関西圏を中心に、多くの観光客を引き寄せた全国でも有名なホテルだ。

壮大な敷地に、様々なお部屋やお風呂があり、プールだけではなく、夜は大人から子供まで楽しめるイベントを開催してくれている。とにかく部屋数が多いので、お盆の時期でも、3か月前はまだ部屋が空いていた。

 

我が家にとっては思い出深い温泉とホテル、申し分のない場所を予約することができた。そして、伯父さんや伯母さん、いとこ、甥や姪との会食の場所も予約ができて準備万端!

 

週に一度だが、久子さんの部屋を訪問するたび、墓参りに行く石川県旅行の話をした。

 

もちろん、すぐに忘れてしまうので、久子さんの部屋を訪ねるたびに、久子さんにとっては初めて聞く話として、いつもサプライズ発表のように喜んでくれた。

そして、いよいよ当日がやってきた!

 

…………….。

2023.01.24