この記事の目次
もう限界!!
久子さんを連れての長距離旅行、高速道路のインターチェンジでトイレを借りることができたので、トイレ問題はクリアできた。
あと約1時間半、長旅もゴールが見えてきたので、ぼくの気持ちにも余裕ができてきた。
久子さんも昼寝ができたので、超元気になってきた。そしてまたいつもの話が始まった。
『本当にうちのお父さん、私にはお金を渡してくれなかったのよ』
『ぜーんぶ自分のものにして、たくさん貯めていたのだから』
どの時代に夫婦で何があったのかぼくは知らない。だから深くは聞けないが、何度も何度も、何度もそのことを言われると、疑いたくなる。
『そんなことはないでしょ、だってお父さんはきちんと家計簿つけていたし、細かい金額までパソコンに入力していたよ。』
ぼくが父を擁護しようとすると、久子さんのご機嫌は坂を転げるように悪くなる。
こちらも何度も繰り返し言うので、語気も荒くなり、最悪の状況を迎えていた。
そして突然、運転しているぼくに向けて、なんと、なんと、数珠が飛んできた!
数珠はぼくの肩をかすめて、足元のブレーキペダル付近に落ちた。ぼくの怒りのボルテージは100万ボルトに達した。
ぼくは無言で直ぐ近くのサービスエリアに入って頭を冷やそうとしたが、簡単に冷えない、冷えてくれないのだ。
『ここは新潟県です。久子さんあなたは数珠を投げた罰を受けなければなりません』
『ここであなたをひとりおろして、私は石川県にむかいます』
『久子さん、あなたは一人で歩いて新潟県から石川県に向かいなさい』
『ここからはまだ100km以上はありますから、できるだけ急いで来てくださいね』
『じゃあ頑張ってね!』
そう言って久子さんを車から降ろして駐車場をぐるりと回った。他の車に迷惑をかけると申し訳ないので、すぐに久子さんの近くに車を寄せた。
ドアをあけると久子さんは車に乗り込み
『外は暑いわねー、車で迎えに来てくれたから助かったわよ、あんがとさん』
それからはお互い無言の時間が続いたので助かった。
息子よ・・すまん。
お墓につくと、親戚のおじさんおばさん、いとこ、甥っ子、姪っ子、たくさんの人が集まっていた。久子さんも、それは、それはとても喜んで、久しぶりに会う人たちと満面の笑顔で再会を楽しんでいた。
だからこれまでの7時間の出来事は水に流そう。
その晩、ホテルに泊まるのだが、ぼくは疲れ切っていたので、久子さんの同部屋は息子にお願いした。
『いいっすよ。お父さんゆっくり休んで』
久子さんのことをよく知らない息子は快く引き受けてくれた。次の朝、息子は疲れ切った顔で、もう勘弁してよ、と言っていたが、無事に一晩過ごせたことにぼくは安心した。
どうやら久子さんは、夜中目が覚めたとき、となりに知らない大きな男が寝ているのを見て、とても驚いたようだ。
息子は、熟睡を妨害され、ババが何かわけのわからないことを言っていることを、ようやく理解し、ババに懸命に説明していたらしい。
『ババ大丈夫だよ、ぼくだよ、ゆうちゃんだよ』
『そんな人知らない、あんただれ』
この繰り返しが続き、しばらくして落ち着いたようだ。息子もババが認知症になってからは、足が遠のいていたので、自業自得といったところだ。
小さい頃、ババにとても良くしてもらったのだから、これくらいは我慢しないとね。
帰りの車の中も大騒動があったが、またの機会にお伝えしよう。
2023.01.05