久子さんとの高速道路 ・・・

部屋の写真を見ながら、久子さんは墓参りに行きたいような発言が増えてきた。

 

最近デイサービスの回数を増やしたことがよかったのか、体調がよさそうだ。

 

何年も墓参りに行っていないから、行きたいと思う気持ちはよくわかる。久子さんは6年前の墓参りを最後に、何度かのチャンスを直前にキャンセルしている。

 

こちらもドタキャンされても、最後の墓参りの時の経験から、その方がいいかも!と思うようになった。

 

6年前の墓参りの時は、認知症の症状を他人には知られたくないと思っているような、久子さんはとても混乱している状態で、周りの人も普通の人と同じように接しているので、一緒に行動するぼくはというと、それは、それは、大変だった。

 

家族は飛行機で、ぼくは車を運転して母と二人石川県に向かった。車の中は長時間二人きりの狭い空間、ある程度は予想していたが、想像をはるかに超えていた。

 

久子さんのマンションで一緒にいて耐えられる時間は2時間が限度と思っていたが、石川県までは、ほとんど高速道路を利用できるが、それでも車で7時間はかかる。車内で繰り返されるおなじ話は10回程度では済まない。

 

お金の話と父の悪口を繰り返されると気がおかしくなってくる。

 

途中、さすがの久子さんも眠くなり、車の心地よい揺れに目がトローンとなっていた。

 

頼む寝てくれ、お願い寝てくれ!お願い、お願いー、頼むー、神様―!!!!

 

『あんたところでいくつになった?』

 

はあー、出たよ、またですか、そのフレーズなんとかならないかね。

こちらも、答えないで黙っている、寝るところを刺激したくはない。

 

『なに黙ってるのよ、答えなさいよ』

 

生まれて何か月かの子供を寝かせつけるより大変だ、久子さんぼくのこの気持ちわかる?

 

それでも神奈川県から朝出発して、日本海側に抜けるまでは頑張って耐えてきた。

 

久子さんは2時間ほど眠ってくれただろうか、少しは落ち着いて運転することができた。

 

久子さんの限界

『いまからどこに行くの?』

 

と、久子さんのお目覚めだ。

 

『お墓参りでしょ、これからお父さんのお墓に行くよ』

 

『そんなこと初めて聞いたわ!突然言われても困る、家に帰る、トイレはどこ!』

 

『トイレ?少し我慢できない?高速道路を走っているからすぐには無理だよ』

 

『早くしてよ、ダメ!もうもれそうなんだから』

 

えー、うそ、うそでしょ、うそと言ってくれーーーーー!

 

久子さんは体をもじもじ揺らしながら、我慢の限界を表現していた。

 

残念ながらサービスエリアは過ぎていたので、残る選択肢は一番近いインターチェンジ、そこで下りて、どこか探すか。

 

そこからの約10分間は、いろんな想像をしながら最悪の事態を想定しながらの運転だった。

 

ようやくインターチェンジを降りて、料金所のひとに頼んだ。

 

『すみませんが母がトイレに行きたいと言うので、貸していただけませんか』

 

親切なおじさんが事務所に案内してくれた。助かった、こんなとき、本当に人の親切が心にしみる。

 

久子さんがすっきりした顔で、何もなかったように事務所から出てきた。

 

『ところであんたお父さんの残したお金どうした?』

 

大きなトラブルを回避して、安心したところに第一声がそれですか?

 

あと少しで、石川県だ。

 

みんなが待っている、がんばろう・・・!

2022.12.28