健康体の久子さん

週に1度、訪問看護が入って久子さんの健康状態をチェックしてくれる。

 

血圧118の86、すばらしい!

 

心臓の音、肺の音、胃腸の音、背中の音、異常なし。

 

耳、廊下でしゃべってる人の話まで聞こえる、異常なし。

 

『はーい、久子さん問題ありませんよ!とてもいい状態が続いてますよー!』

 

久子さんは嬉しそうに

 

『こんなチビばんば、いつまで生きとるんだ、と笑われるわ』

 

『いつ死んでもいいのに、まだまだ生きられそうかな』

 

『もしかするとぼくが先かもよ』

 

現在の男性の平均寿命まで、ぼくが生きると仮定して、その時久子さんは105歳。

 

うーん微妙だな、リスクとして想定しておこう。

夢に出てこない父

突然、看護師さんが言った

 

『久子さんお嫁に行った夢見たんだよね』

 

『そうなのよ、うふふ、うふふ』

 

久子さん、いま妙な笑顔をしたねー、ただごとではない空気感だ、、

 

ぼくは聞かずにはいられなかった。

 

『えっ、本当?そんな夢見るんだ!もちろん相手はお父さんでしょ?』

 

『何言ってんのよ、全然ちがうわよ!わあっはっはー、わあっはっはー』

 

がーん、、、。

 

今度は大きな口を開けて大笑いだした、「このチビばんば!逮捕だ!」と思ったが、その前にぼくは、じょうだんよ、じょうだんに決まってるでしょ!という久子さんの言葉を待っていた。

 

『あの人はね、一度も私の夢に出たことないんだから、出るつもりなんかさらさらないのよ、きっとそうだわ』

 

なんと、このチビばんば、夢に出ないことを完全に父が悪いとしている。

 

『週に3回は見るわよ、いつも違う男性』

 

『このエロばんば』

 

小声で看護師さんだけに聞こえるように言ったつもりだった。

 

『この年だからエロばんばでいいのよ、そうでないと生きていけないわよ』

 

さすが、外の廊下でしている話し声まで聞こえる耳をもつエロばんば。

 

、、、聞こえてたんだ。

 

久子の劇場

看護師さんは父親の写真を見て父をカバーしてくれた。

 

『おとうさん素敵な方じゃない、久子さんがうらやましいわ』

 

『そうかしら、色白でいつも肺が悪く、結局結核であっという間に死んじゃったわよ』

 

また始まった、、、色白で肺が弱い男性に苦労した久子さん劇場が!

 

父を結核で死なせた後に必ず続く第2話。

 

そう、それは防空壕。

 

『こんなチビでしょ、首根っこ捕まえてポイッと、ポイッと、捨てるようなもんよ、1日に4回も5回も防空壕に入れられたのよ!』

 

『わっはっはー、わっはっはー』

 

今日の久子さんは絶好調!

 

看護師さんが帰ったあと、二人の間に、なんとなくばつが悪い雰囲気が流れた。

 

ピンポーン

 

『久子さーん、予防接種の準備できましたよー』

 

助かった、今日はコロナワクチンの3回目接種だった。

 

とにかく、認知症は奥が深い、また新しい久子さんを発見してしまった。あおぞらに入ってもうすぐ1年、体はものすごく元気になり、頭はキレキレでアクティブで、ボケもツッコミもなんでもござれだ。

 

以前、さんまさんの番組だったと思うが、、あのご長寿クイズに出たら、芸能界デビューできるかもしれない。

2022.10.13