調剤薬局のデジタル改革が進んでいない
2022年2月9日、日経新聞記事によると、経団連が提言している調剤薬局のデジタル改革が、反発や慎重論が多く、思うように進んでいないとのこと。
調剤薬局の業務には大きく分けて対物業務と対人業務があり、薬剤師ができる限り対人業務に専念するよう、厚労省も診療報酬の改定で方向性を示し、誘導を進めている。
当然のことだが、対人業務に専念できるようになるためには、対物業務を中心に効率化が重要なことは、この世界で働く人は百も承知だ。
それなのに、調剤薬局のデジタル改革については反発や慎重論が多いと記事は伝えている、いったい何が起っているのか。
病院の近くにある一般的な薬局の場合
一人の薬剤師が1日数十人の患者さんの処方箋を受け付けた場合、患者さんを長時間待たせることなく、正しく調剤し、一人ひとり丁寧に服薬についての指導を行う、その一連の業務の煩雑さは、私には人間の限界を超えているように見える。
処方せんを受け付けたあとの業務をわかりやすく言うと、処方内容のデータ入力、医薬品を集めて揃える、間違いがないかを監査する、患者さんへの服薬指導と投薬を終え、指導内容や患者さん情報のデータ入力と、一人の患者さんに短くても20分はかかる。
ただし、医師が作成して処方箋に間違いがあった場合、調剤する前に処方した医師に疑義紹介をすることが義務づけられており、これは薬剤師の大事な任務だ。
間違えば、健康被害や命に係わる場合もあり、薬剤師の責任は重い。
また、高齢者になると、何種類もの薬が処方されると、きちんと服用することが困難になるため、1回に飲む薬をひとつの袋にまとめるサービスが求められる。
この1包化という業務がやっかいで時間がかかる作業になる。
私は前職で、調剤業務のリスクコントロールに携わったことがあり、何件もの調剤薬局の調剤室に入って、長時間観察した経験があるが、本社で上がってくる報告書を見るのと、現場で現実をきちんと観察するのは、まったく見え方が違うことを申し上げたい。
調剤にミスがあり気が付かずに問題が発生すると、再発防止のため報告書があがる。
その内容を読んだ管理職の人の多くは、おそらく「薬剤師なんだから、もっとしっかりしようよ、同じミスを繰り返すのはどういうことなの?」と思うだろう。
だが、声を大にして言いたい、調剤薬局の薬剤師に求められている業務は、目や手、足腰に相当な負担をかけており、狭い空間で長時間休む暇なく立ち仕事が続く、とても過酷な環境にある。
慣れた手つきで、何千種類にもなる棚や引き出しから迷うことなく、まるで精密機械のように短時間で医薬品を揃えている。小さな文字を1文字1文字手で追いながら、間違いがないか丁寧に監査をしている。店内には多くの患者さんが待っている。
こんな姿を見ていると、もっとしっかりしてよ、という言葉は申し訳なくて使えない。
ミスの原因を追究し対策を考えるうちに、薬剤師個人の問題ではなく、薬剤師をめぐる制度や仕組みといった構造的な問題が大きいことに気づき、根本的解決には至らなかった。
また、処方内容に問題があり、医師への確認が必要になったとき、薬剤師にとっては一番ストレスが大きくなる瞬間だと思われる。
あきらかな処方ミスであれば、よく見つけてくれたと、医師の方は感謝してくれるだろう、しかし医師が治療に必要と判断し意図的に行った場合、トラブルになることがある。
もし忙しい医師が、何回も同じ薬局の違う薬剤師から同じ内容で疑義紹介がくると、おそらく「いいかげんにしろよ!」となるだろう。
薬剤師は当然いろんなケースを思い描きながら、どのように疑義紹介をするべきか短時間に判断しなければならない。
このように日本の薬局は、精神的肉体的にハードな現場が多く、医師や薬剤師にとっても患者さんにとっても良い方向にむかうためには、法律や制度の見直しから、医師会との調整、製薬メーカーの改善まで、大きな構造改革が必要だと思う。
しかし新聞記事は、思うように調剤DXが進まないと伝えている
厚労省、薬剤師会、中小薬局経営者のそれぞれの思惑が障害になっているように新聞記事は伝えている。
もし記事の内容が事実なら、責任逃れや既得権を守るためのようにしか見えない。
私は14年前、フランスの調剤薬局の裏側を見る機会に恵まれた。
スタッフが(薬剤師かどうかは忘れたが)パソコンに処方箋の内容を入力しenterを押して15秒後、薬剤師がいる背後のboxの中に4種類の錠剤が2階から落ちてきた。
2階が医薬品の倉庫になっていて、物流倉庫と同様に自動的に必要な医薬品を揃えて、1階に落としてくれるのだ。
患者さんは処方箋を渡してから数分後、医薬品の説明を薬剤師から受けていた。
14年も前の話だ。
日本の国民に問いたい、どちらがいいですか?
2022.03.06