先月配信したコラム『中谷治宇二郎と偉人たち:その1』はご覧いただけましたでしょうか?
まだの方は、ぜひその1からお読みいただくと今回のコラムも楽しんでいただけます。
『中谷治宇二郎と偉人たち:その1』はこちら↓
芥川龍之介が治宇二郎の小説をほめていたことを書いたが、実はその証拠となる芥川龍之介全集を見つけることができていなかったのだ。
大きな書店を何件か回り、どこの書店でも並んでいる、ちくま文庫や岩波書店から出版されている全集を確認したが、『一人の無名作家』という作品は見つけることはできなかった。
もう一度、法安桂子さんの著書である『幻の父を追って』改訂版の著作目録のところを確認したところ、『芥川龍之介全集』第四巻、筑摩書房1964年と記載されていた。
「そうか、1964年(昭和39年)に発行された全集でなければ掲載されていないのでは!」ということに気づいた。
しかし60年も前の古い本だけに直ぐには中古品を見つけることができず、コラムに書いたものの不安な日々が続いていた。
見つけた!
コラムを配信して2週間ほどたった時、メルカリに、見た目も古い1964年発行の筑摩書房の全集が出品されているのを発見した。
全集は8巻だが、運よく出品は1巻から4巻までのもので、1800円で購入することができたのだ。(ちなみに当時の第4巻の定価は380円)
支払いを終え、待つこと約1週間、待ちに待った芥川龍之介全集が家に届いた。
丁寧に包装され、思ったより良い状態の4冊が、ようやく目の前に現れた。
これまで、いくつかの全集を本屋で立ち読みしながら、ページを丁寧にめくり、『一人の無名作家』という作品を探し続けていた。
今回も目次を中心に全体を何度か見返したが、気持ちがたかぶり焦っているせいもあり、目的の文言はなかなか見つけることができない。
また今回もダメかと思いながら、目次を読むこと何度目かのところで『一人の無名作家』という文言を見つけたのだ。
「見つけた!」と思わず声が出た。
嬉しい!本当にうれしい!
何度も書店に足を運び、いつもがっかりして帰ってきていたので、正直どこにも載っていないのではないか、という疑いの気持ちさえも持っていた。
昭和39年発行の筑摩書房芥川龍之介全集の四巻には、小説6篇、随筆66篇、小品57編が収められており、目次の中から探すことも意外に大変だったこともあり、不安と疑念は大きくなっていた。
中谷治宇二郎と芥川龍之介がつながった瞬間、芥川龍之介の心の叫びを聞くように、治宇二郎の才能が浮き上がってきた。
『七~八年前のことです。加賀でしたか能登でしたか、なんでも北国の方の同人雑誌でした。
今はその青年の名を覚えて居りませんが、その作品が非常によかったので、今でもそのテエマは覚えているのですが、その青年の事は、折々今でも思い出します。才を抱いて、埋もれてゆく人は、ほかにも沢山あると思ひます。』(一人の無名作家本文の一部を掲載)
芥川龍之介の書きぶりと、折々今でも思い出します、の言葉から、北国の青年の才能が埋もれてしまっていることに対する、とても切実な思いを、あたかも目の前に芥川龍之介がいて聞いている自分がいる、そんな不思議な感覚を味わった。
日を置いて何度も『一人の無名作家』を読み返したが、同じ感覚だった。
亡くなられて90年近くが経っているが、これからも中谷治宇二郎を探していきたい、この思いが強くなる経験になった。
2025.03.03