施設のありがたみ
100歳のSさん
あおぞらで暮らしていたSさん、100歳の男性が退去された。
食堂で久子さんの食事を見守っていたとき、見ず知らずのぼくに何度か声をかけてくれた。とても100歳とは思えない記憶力のよいSさん。
80年前の思い出の地、小松の航空基地のことを語ってくれた。
18歳で海軍に所属され、太平洋戦争を戦ったSさんからもっとお話を聞きたかった。残念ながら転倒されて入院されたとのこと。おそらく病院の療養型の施設に入居することになる。
でも、いただいたご縁は今の活動を続けるぼくの宝物になり、いつまでも心の中でお会いできるし、小松のエピソードは忘れない。
100歳の男性とのエピソード1
100歳の男性とのエピソード2
老後は住み慣れた自宅で最期まで暮らしていたい。
この願いは多くの高齢者の望むところ。一人暮らしでも慣れた所で自由に暮らしていたい、このような気持ちは自然なことだ。
これは多くの高齢者、そしてその人たちの生活を支える介護職員の多くを見てきたぼくの勝手な考えかもしれないが、これまでなんの縁もなかった人たちが一緒に暮らす施設は、新しい出会いと賑やかな雰囲気の良さがあると思う。
Sさんのような素敵な100歳の人との触れ合いや、生活を支援してくれる若い明るいスタッフとの出会いは、閉じこもりがちな高齢者の生活に、明るい彩りをつけてくれるだろう。
久子さんも以前暮らしていたマンションから出たくない、施設に入ったらボケてしまう、だからどんなことがあっても入らないと、認知症の初期段階を少し超えた久子さんが言っていた。
その後しばらくして、久子さんは誰かにキャッシュカードを渡してしまい、現金を引き落とされてしまう詐欺にあい、そしてガスコンロの火の消し方がわからなくなりボヤをだしてしまった。
現代は高齢者にとって本当に危険な世の中だ。
高齢者を狙った強盗事件が多発している。また台風、豪雪、川の氾濫、土砂崩れなどの自然災害の多いところでは、一人暮らしよりは施設の方が安全だ。
入れ歯騒動
10月中旬ようやく涼しくなってきたので、気持ちよく狭山の町を歩きながらあおぞらに向かった。
あおぞらの玄関に入ると、ぼくのところにスタッフが駆け寄ってきた。久子さんの入れ歯が見当たらない、との報告を受けた。
「部屋の中はどこも見当たらないんでしょうか?」
「えーそうなんですけど、ただ久子さんは、私達がいろんな所を探そうとすると、強い拒否反応をしめされるので、、、」
「そうですね。わかります、じゃあぼくが探してみますね」
「よろしくお願いします」
久子さんが大事なのもをしまうとしたら、机の引き出しの上から2番目かな、ビンゴ!
上から1番目の引き出しは、食べかけのお菓子、ティッシュペーパー5〜6枚、包装紙などなど。
2番目はそれ以外の様々な物が入っているが、意外と実用的な物ばかりだ。
2番目の引き出しを開けると、手のひらに収まるくらいの大きさで、丁寧に何重にもティッシュペーパーで包まれた入れ歯がでてきた。
「誰がそんなところに入れ歯をいれたの?私の大事な入れ歯なのに!」
周りの人の心配をよそに、久子さんは平然としているから、本人にとって認知症とはなんと幸せな病気なのか。
でもそれは施設にいるからこそだと思う。
とりあえず入れ歯騒動は短期間で決着がついた。
久子さんが一人暮らしをしていると、どんなことになっていたか。
住み慣れた自宅に住み続けたい、施設は嫌だ、でも高齢者の安全と健康と安心は失ってからでは遅い。
2024.10.30