この記事の目次
再会
明日の日曜日は孫の2歳の誕生パーティー!
土曜の今日は久子さんがデイサービスに行く日。
だがなんとしてでもあおぞらには行っておきたい!
朝はゆっくりして、久子さんのデイサービスが終わる夕方ころ到着予定で、あおぞらに向かった。さすがに土曜日は電車が混んでいる。
小さな子供をつれた若いご夫婦、赤ちゃんを抱いた男性、電車の中は天気の良い土曜日を満喫してきた若い人たちの幸せそうな雰囲気で満ちていた。
ぼくが生まれた頃、久子さんはどんな気持ちで初めての子供のことを思っていたのだろう。久子さんが元気な頃にもっと聞いておけばよかった。
あおぞらに着いたのは夕食の時間には少し早かったが、案の定、久子さんは食堂で一人静かに座っていた。
「あらー珍しい人が来たこと!」
一通りの久子さん挨拶を受けていたら、一人の男性が声をかけてくれた。
「失礼ですが、小松出身の方ではないですか?」
53話の中で出演いただいた男性だと、すぐにわかった。
※53話はこちら↓
「そうです!覚えてくださって、ありがとうございます。」
ぼくはこの方の丁寧な話ぶりに普通ではない、何かを感じていたが、その方の詳しいことは聞いていなかった。
いや、聞きたかったのだが、久子さんが機関銃のように話に絡んできて、いつもこの方は静かに去っていくのだった。
もうあれから10ヶ月も経とうとしているが、久子さんがドタキャンした石川県の墓参りの帰り、あおぞらによってお土産のお菓子を食堂にいる人たちに配ったときのこと。
小松市の有名なお菓子を見て、とても喜んでくれた男性である。
小松飛行場に勤めていたので、とても懐かしいです、とおっしゃってくれていた。
久子さんが食事している間に、今日はこの方のことを少しでも聴きたいと思い、久子さんにはしっかり背を向けて話を伺っていた。
お話しを伺うと、何か話が噛み合わないような事が出てきたので、少し認知症が入っているのかなぁ、と感じ始めたが、それも束の間だった。
おどろき!!
男性はこれまでずーっと小松の自衛隊に勤めていたと思っていた、だが、そうではなく小松の海軍航空隊に入隊していたということがわかったのだ。19歳で志願した予科練の練習生だったとのこと。
この時点でぼくは認知症を疑ってしまった。
なぜなら、見た目は80歳ほどなので、計算が合わない。
テレビなどで見る予科練の経験者は100歳に近い方が多く、どう見ても10歳は違うと思ったからだ。どうしても聞きたくなった。
「失礼ですが、今おいくつですか?」
「100歳を過ぎました」
なんと、あおぞらにいらっしゃることは知っていたが、この方が男性で100歳を超えた方だったのだ。(58話をご覧ください)
※58話はこちら↓
全ての話が繋がった瞬間だった。
えー!、嘘でしょ、ほんとに!なんと、なんと!びっくり!
歩き方、しゃべり方、表情、どれをとっても80代にしか見えない。
あとで施設長に確認したところ、人の名前もよく覚えてくれる、認知症とは無縁の人です、とのこと。
「失礼しました。80歳ほどだと思っていたので、航空自衛隊勤務されていた方だと思ってしまいました。お国のために19歳で自ら予科練に志願されたのですね。」
突然後ろから大きな声で久子さんがさけんだ。
「おーい!ところであんたいくつになったの?」
「100歳」
ぼくは突然のことで、頭の中で輝きを放っている数字を口に出してしまった。
「あら、もうそんな年になったんかね、それはお祝いした方がいいよ」
「町からお祝いももらえるみたいよ」
まじめに反応している久子さんを尻目に、またその男性は静かに去っていくのであった。でもこれで、食事時に訪問する楽しみができたのだ。
2023.06.23