道案内

「すみません、初めて来たところなので道がわからなくて、お聞きしてもよろしいですか?」

 

狭山市駅から歩いてあおぞらに向かっているとき、ご高齢の女性から声をかけられた。

 

 

「どうされましたか?」

 

 

「狭山中央病院に行きたいのですが、どうやって行けばよいのかわからなかなってしまいました。」

 

 

「私も同じ方向に行くので、途中までご一緒しますよ」

 

 

聞くと旦那様がショートステイに入っている時、具合が悪くなり救急搬送され、知らない土地の病院に搬送されたため、道に迷ったようだ。

 

76歳から認知症の症状が見られるようになり3年間、デイサービスとショートステイを利用しながら、旦那様を献身的に見ておられる様子が、15分ほど一緒に歩きながら伺えた。

 

 

「家にいるときはどこも悪くなくて、とてもおとなしくしているけど、ショートステイでは何か違うみたい、でも仕方ないよね」

 

 


「どうされたんですか?」

 

 

「なんだかショートステイが合わないのか、具合が悪くなっていろんな病院で見てもらっても、どこも悪くないと言われて…」

 

 

 

「やはり奥様が近くにいる環境が落ち着くんでしょうね。」

 

 


「私もできるだけやってあげようと思うんだけど、やっぱり自分の時間をうまく使ったほうが長続きすると思ってね、デイサービスとショートステイをつかってきたのよね。」

 

 


「旦那様、奥様のような方に看てもらえて幸せですね」

 

 


「でもね、もう施設が決まっていて、寂しくなるけど、これも仕方がないのよね」

 

 


「私も足を怪我したので、もう無理かなぁと思ったから」

 

 


「きっと旦那様もわかってくれていると思いますよ。」

 

 

 

あっという間に病院の近くに来て、お大事にしてください、と言ってお別れした。

 

ほんの短い時間だったが、お二人のこれまでの人生を想像しながら、認知症を患ってしまったパートナーを持つ高齢者の辛さ悲しさを、あらためて感じた時間だった。

 

やっぱり久子さんには

 

「こんにちは、元気?」

 

 


「あらまぁ、どなたかと思ったら、なんとまぁ珍しい人がきたこと!さぁ入って入って」

 

 

よかった、久子さんはぼくのこと、まだわかっているようだ。

 

 

どちら様でしょうか?と言われるXデーはまだ先になるかな?

 

 

「お父さんも笑って見ているよ、めずらしく息子が会いに来てくれたから」

 

 

父の写真はたくさんあるが、遺影に使った写真は最高の笑顔なのだ。なぜなら孫と一緒に過ごしている時の写真だから。

 

 

今のぼくがまさしく孫の可愛さを実感しているので、写真には写っていないが、その時の父の心理状態まで読み取れてしまう。時が過ぎ、いつか息子が家内の施設を訪ねたとき、ぼくの遺影を見ながら、孫をよく可愛がってくれたよねーと話が弾むんだろうか。

 

 

そんなことより、今は超元気な久子さんのことをもっとよく考えないといけない!

 

 

今日も久子さんに喜んでもらおうと、どら焼きとイチゴを買ってきた。

 

 

「イチゴはまだ冷蔵庫の中にあるのに、また買ってきたの?」

 

 

しまった!

 

 

冷蔵庫を開けると1週間前に買ったイチゴが、その時食べた1個が減っているだけで、残りは色が変わっていた。

 

 

あー、イチゴ好きだと言っていたが、そうではなかったのか…

 

 

「イチゴ嫌いだった?」

 


「好きだけど、なんだかお腹の調子が悪くなるので、あまり食べたくないの」

 

これからは、ワンパターンだが、やはり久子さんには好物のどら焼きだけにしよう!

 

イチゴワンパックでどら焼きが3つ買える。

 

イチゴは1週間たっても無くならないが、どら焼き3つは10分で無くなるのだ。

2023.05.31