住めば『みやこ』

2月23日は天皇誕生日、忘れもしない1年前、久子さんが「あおぞら」に引っ越した日だ。

 

もう3年ほどたっているように思えてならないが、1年前のできごとだ。

 

将来も色あせることはないだろう。

 

そして、かたくなに施設に入ることを拒んでいた久子さんも、なんとか「あおぞら」に馴染んでくれた。

 

『住めば都であーる』と久子さんに代わってつぶやきたい。

 

入居した日は、どこかで転倒して後頭部に大きなタンコブをつくった。半年ほどは、ご飯はどうしたら食べられるのか心配で、親戚中に電話していた。お風呂を嫌がり、最初のころは月に2回ペースだった。最近は週2回程度お風呂に入れるようになり、ヘルパーさんも楽しそう。

 

この1年、久子さんはいろんな素の姿を見せてくれ、ぼくにたくさんのことを考えさせてくれた。今は、ただただ感謝の気持ちでいっぱいだ。そして、声を大にして叫びたい!

 

ありがとう!あおぞらの皆さん!!

 

そして日本の介護保険制度!!

 

久子さんにも、ぼくに学びの場を与えてくれたことに、とりあえず感謝しておこう。

そうだ、ぼくは学んだのだ!久子さんを見ていて心の底から思うことがある。認知症の高齢者が、施設の良さがわからず、自宅で暮らして症状が悪化している、、。認知症の高齢者が施設に入りたくても入れない、、、。

 

このような不幸があってはならない。

 

久子さんが一人暮らしをしていたころ、久子さんの周りは危険だらけだった。おれおれ詐欺の対策について、テレビの映像や公共機関などにポスターが貼られている、その種類や注意することなど様々なことが訴えられている。

 

でも、認知症の高齢者には、まったく!全く!!まったーく効果がない!1人暮らしや老々介護の環境で、少しでも認知症の疑いがある高齢者の世帯は、特殊詐欺から狙われ放題だ。

 

久子さんは特殊詐欺で30万円の被害を受けた。

 

そして冬の季節、特に気になるのは、高齢者世帯の火事の報道が多いこと。久子さんもそうだったが、鍋に火をかけて忘れてしまう、家にある電化製品の使い方がわからなくなる、火事にならなくても大けがの心配の種は、家じゅういっぱいである。

 

車を運転していてアクセルとブレーキを間違える高齢者ドライバーの、なんと多いことか。

 

認知症を悪化させてしまう?

育ててくれた親のことを思い、優しい気持ちで住み慣れた家で介護をしている子供や孫が、その親から泥棒呼ばわりされたら、子供や孫はどんなにショックを受けるだろうか。認知症がすすみ、タンスの中や隠れた場所に汚物が隠され、家中が異臭や汚れでひどくなった状態で、本当に一緒に暮らすことができるのだろうか。

 

家族による虐待や殺人事件、介護疲れによる心中事件など、今後どれだけ増えていくのだろうか。

 

認知症介護を甘く見てはいけない! 

そして久子さんの現在の様子を見て思う。

 

そして声を大にして社会に伝えたい!

 

認知症の症状が現れたとき、その人がそのままいつまでも自宅で暮らすことは、間違いなく症状を悪化させてしまう、ということを。

 

家族は認知症介護のプロではない、どんな優しい人でも親子関係だから衝突が起こり、本人は混乱状態が続き、症状はみるみる悪化していくだろう。認知症介護は早く施設のプロに任せた方がよいのだ。

 

あおぞらに暮らして1年がたった久子さんは、今日も元気だ!

 

ピンポーン

 

『は~い、あらー珍しい人がきたこと!』

 

『そういえば、あんた今いくつなの?』

 

どうか、『あんた今いくつ?』が『あんた誰?』になりませんように…。

2022.11.15