ブラックエレファント

 

コロナ禍が世界を襲っている中、ブラックエレファントという言葉をよく目にする機会が増えた。

予測できなかったリスクが現実のものとなり、大きな影響がでることを意味する有名な言葉ブラックスワン(黒い白鳥)にかけて、十分わかっているリスクにもかかわらず見て見ぬふりを続けた結果、大きな影響をうけてしまうことをブラックエレファント(黒い象)というようだ。

コロナ禍のような新型ウイルス感染はまさにその通りだろう。

鳥インフルエンザなど、新型インフルエンザウイルスのパンデミックにも備えて、ブラックエレファントにならないよう政府と自治体、そして医師会は連携をとり、しっかり感染症に対する医療体制を整備してほしい。

 

認知症もブラックエレファントかもしれない

 

さて、私はこの2年間、厚労省や内閣府の資料、そしていくつかの企業様との情報交換を通じて介護問題について考えてきたが、認知症こそ、日本だけでなく、世界中がかかえるブラックエレファントと呼ぶに相応しいリスクだと感じてきた。

 

1945年第2次世界大戦が終わり、その後先進国の多くではベビーブームが到来した。

 

その時代に生まれた人たち、日本では団塊世代と呼ばれる人たちが、70代後半に入るとどのような問題が起こるかは、今では誰もがよく知る問題だろう。

 

社会保障にかかわる費用負担の問題、介護職員不足による公的介護保険サービス提供に係わる問題、介護離職問題、虐待の問題、高齢者運転による死亡事故や火災など他人を巻きこむ問題、特殊詐欺、これらは家庭、企業、自治体、介護サービス提供事業者、医療機関など、地域社会全体に多大な影響を与えることが簡単に想像できるリスクだ。

 

いやいや、2025年を目も前にしてすでに現実化し始めているから、もうリスクと呼ぶべきではない、顕在化した現実問題だ。

 

しかし、十分な対策がみられないため、残念だが、やはりブラックエレファントと呼ぶにふさわしい問題なのだろう。

この2年間の活動の中で見えてきたことは、「臭い物にはふたをする」的な現象だ。

厚労省や内閣府の資料、認知症対策に関連する法案など、どれを見ても認知症に関する内容は、患者さん本人の尊厳を守ることを目的に作られたもので、介護する側の苦悩を助けるものではない。

 

認知症が疑われてから、その方がお亡くなりになるまでの期間は決して短くはない。
短くても5年、長ければ20年を超えると考えて準備するべきだと言いたい。

 

そのために必要な資金をどうするのか、またどこでどのように暮らしてもらうことが適切か、そのための準備は早い段階で行わなければ、地獄のような問題に直面する確率が高いことを認識するべく、政府や厚労省は国民にメッセージを送りべきだ。

 

なぜなら、団塊世代の人口ボリュームは他を圧倒しており、日本の高度成長を支えた過酷な人生を送ってこられた方々だから認知症を発症する確率は高く、その多くの認知症高齢者により発生する問題は想像をはるかに超えるかもしれない、このことが2025年問題の本質だからだ。

 

そしてこの2025年問題は、一過性のものではなく、その先30年は続く問題だということを、さらに付け加えておかなければならない。

 

これらの問題に関して政府や厚労省はどのように準備しているのか、全く見えないが、国民に対するメッセージは何もないに等しいため、「臭い物にはふたをしている」と思われても仕方がないだろう。

 

せめて、国民が自ら主体的に早く準備できるように、あらゆるリスクが認識できるようにするべきだ。

 

認知症と診断されると・・・

 

認知症と診断されると、その方名義の資産は凍結されること、そのためには介護費用をどのような方法で準備するべきか、この程度のことさえ、政府や厚労省の介護に関するガイドライン的な資料には書かれていない。

また、認知症の症状の特徴から起こる様々な問題についても、在宅介護を推奨するかのような記述しかみられないから、これでは家族は仕事どころではなくなり、経済的にも破綻する可能性が高くなる。

有名キャスターの安藤優子さんは、ある雑誌のインタビューで、お母様に対する16年間の壮絶介護を語っている。

 

その中で、在宅介護の限界と危険性を感じたこと、専門家による施設介護がお母様らしさを引き出してくれたこと、だから自分たちで認知症介護をするのではなく、今の時代は第3者にまかせることが重要だということを語っている。

 

優秀でどんなに素晴らしい人生を送ってこられた方でも、また、どんなに優しい人柄の良い方でも、認知症を発症すると、家族や周りとの関係は一変し、時間が経つにつれ壮絶な、または地獄のような事態に遭遇する可能性が高くなる。

 

言動がおかしい!と感じた時点ではおそいかもしれないが、お金と施設入居の準備をすぐに始めるべきだ。

人生100年時代、誰もの身近にいる大きくて黒い象に、見て見ぬふりはもうできない時代に入っている。

2022.08.05

カテゴリー:認知症