医療提供体制の再構築

 

日本経済新聞社は、日本経済研究センターと医療改革研究会を創設し、その分析結果による緊急提言を本年2月にまとめたとし、6月の日経新聞の1面記事や特集記事に何度か分けて、医療提供体制の再構築を呼びかけている。

コロナ禍のなかで、欧米やアジアの多くの国や地域は、デジタル技術を生かした医療体制の再構築がみられたが、日本はこの分野で大きく後れを取った。

デジタル技術を生かすことができれば、より便利に、より効率的に、より効果的に医療サービスを受けられるようになることは誰が考えても明らかなことだろう。

 

今回の改革提言の内容は、過去から何度もあがっている内容が多く、様々な反対があり実行されていないが、コロナ禍の結果を踏まえ、政府がしっかり先導し改革を実行してほしい。

特に、個人個人の検査・医療データのデジタル化と、そのデータをすべての保険医療機関や保険調剤薬局で使えるようにすることが重要になる。

保険証をマイナ保険証に移行させ、医療機関へのカードリーダーの設置義務化が進むと、会計業務や周辺事業にかかる負担も軽減される。

 

デジタル化されたカルテ(診療録)やレセプト(診療報酬明細書)などの情報が紐づけされ、患者・医師の双方が、必要な医療データをいつでもどこでもオンラインで確認できるようになれば、医療行為の透明化がすすみ、検査の重複や不適切な薬の組み合わせによる副作用の回避に役立つだろう。

 

また、金融口座の情報をマイナンバーカードと紐づけることで、世帯の資産状況を正確に把握することができれば、年齢による医療の窓口負担割合の線引きではなく、負担能力の低い世帯だけ窓口負担割合を軽減することができる。

現状は、紙のカルテを使っている医療機関が全体の半数以上を占め、また、電子カルテを使っている医療機関でも独自の仕様でデータを利用しているため、他の医療機関との互換性は低い。

医療データやソフトの標準化には、常に万全と言えるほどのセキュリティ対策が大前提になるなど課題も多く、反対意見が多いが、海外の事例を参考に政府が強力に先導し進めてほしい。

 

2014年に亡くなられた経済学者である宇沢弘文氏は、「一つの国ないし特定の地域に住むすべての人が、ゆたかな経済生活を営み、優れた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にする社会的装置」を社会的共通資本と定義した。

2年以上にわたり世界を苦しめたコロナ禍を経験した人類は、今ほど、この宇沢弘文氏の言葉が身に染みて理解できるのではないだろうか。

つまり、医療機関は社会の共通資本の代表的存在であることを。

感染症パンデミックは人類史上何度も経験しているにも関わらず、また、その対処法やワクチンという武器を知りながら、そして、致死率が高いと予想される鳥インフルエンザの人人感染を予防するため、全国各地で鶏の殺処分が行われていながら、なぜ、今回のコロナ禍においては日本の医療機関が機能しなかったのか。

新型のウイルスが感染拡大すると、どのような事態になってしまうか、予想ができているにもかかわらず、社会的共通資本である医療機関の多くは、機能しなかった。

医療の世界だけでなく、行政もデジタル化がおくれているため、給付金の使われ方やスピードに多くの問題を残していた。

 

この反省をいかし、日本経済研究センターがまとめた医療改革提言の中のデジタル改革は早急に、政府が先導し、地方行政、医師会、医療機関が足並みをそろえて、早い時期に進んでいくことを願いたい。

2022.07.22

カテゴリー:メディア